皮膚糸状菌に罹患したペットの在宅管理 〜チェックポイントで実践!編〜

前回の記事では、皮膚糸状菌症という病気について解説しました。ただこの病気は、実際に患った子の飼い主さんから『治療中の世話がとても大変だった』という声も聞きます。

そこで、実際に皮膚糸状菌症の管理方法を、チェックポイント形式で解説しようと思います!

皮膚糸状菌症のおさらい

皮膚糸状菌症とは、いわゆるカビ(真菌)の一種が毛に感染したことにより起こる皮膚疾患をさします。

治療に2〜3ヶ月程かかるが、同居動物やヒトに感染する可能性もあるため衛生管理が大変。

動物病院で行う診断・治療方針については、前回の記事で解説しているのでご覧ください。

»皮膚にカビが感染する病気!? 皮膚糸状菌症について

 

それでは、自宅でのケアのチェックポイントを順番に見ていきましょう!

目標

1. 人や他の同居動物への感染リスクを最小限にする

 

2. 糸状菌に感染したペットの毛やフケによる感染を最小限にする

 

 

自宅で用意するもの

  • 掃除機
  • 次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター、ピューラックス)
  • コロコロローラー
  • ペット用ウェットティッシュ掃除のスタイル
  • クイックルワイパー
  • ゴミ袋
  • ゴム手袋
  • 園芸用エプロン(撥水機能がついてると尚よし)
  • キッチンペーパー

ワンポイント

お部屋の環境に合わせて必要な物は変わります。必要に応じて獣医さんと相談しましょう。

 

隔離

STEP1感染動物の隔離

 ☑︎フローリングなど掃除をしやすい部屋

 ☑︎物(家具)が少ない部屋

 ☑︎引き出しや扉は全て閉められる部屋

 ☑︎同居動物と接触を防げる部屋

 

〜 お住まいの性質上、隔離が難しい場合 〜

住宅の事情により隔離が難しい場合があると思います。そんなときは、立体ゲージをうまく利用しましょう。

 

ワンポイント

側面にプラスチック段ボールをつけて、毛が飛ばないように工夫しましょう。お掃除するときは、他のペットをキャリーケースなどに入れて近づけない様にしてからしっかり行いましょう。

 

〜 隔離が不適切な場合 〜

  • 社会化期の動物
  • 重篤な疾患の併発
  • 隔離によるストレス

この場合は、おウチの方の判断ではなく獣医さんとよく相談した上で対応を決めてください。

 

STEP2 同居動物の感染チェック

皮膚糸状菌に感染したペットと同様に、検査を受けていただきます。

 検査で

  陽性:治療をすぐ開始します。

  陰性:抗真菌シャンプーなどを用いて、定期的(週1〜2回)にシャンプーをしましょう。

ワンポイント

皮膚糸状菌に感染しても、症状はゆっくり進行していきます。怪しい症状を認めた時は動物病院に行きましょう。 ※ 他の動物にうつすこともあるため、事前に連絡してから受診するといいと思います。

同居の動物やヒトに皮膚糸状菌を移さないこと、また、生活スペースを限定して掃除をこまめに行うことがポイントです。

 

掃除と消毒

頻度

週2回の徹底した毛やフケの掃除と消毒を必ず行いましょう。

また、それ以外の日は簡単な掃除(毛の除去)と消毒をお勧めします。

消毒液は毎日交換しましょう。

 

 徹底した掃除と消毒編 

 

STEP1 

掃除機やコロコロカーペットローラー、クイックルワイパーを使って皮膚糸状菌に感染した毛やフケを除去します。

床(特にカーペット)、壁、家具やその裏側、カーテン、部屋の四隅などホコリがたまりやすい場所は念入りに行いましょう!

 

 

STEP2 消毒液を用いて適切に消毒

<次亜塩素酸ナトリウムで消毒液を作る方法>

  1. 消毒液:次亜塩素酸ナトリウム6%(例:キッチンハイター、ピューラックス6%など)
  2. 消毒液2mlを、水198mlで薄める(100倍希釈)
  3. スプレーなどで塗布後10分間静置し、よく絞った水拭きで拭き取る。

腐食性が強いため、傷みや色落ちすることがあります。

 

<加速化過酸化水素水の場合>

加速化過酸化水素(AHP)含有の除菌洗浄剤を使用する。スプレーやウェットティッシュタイプがあります。

スプレーなどで塗布後10分間静置し、よく絞った水拭きで拭き取る。

 

ワンポイント 

お部屋の床・壁紙・家具・小物(ケージ・トイレ・キャットタワー・食器・ソファー・衣服) などをしっかり消毒する。 ※ 感染被毛やフケによる再感染については今のところはっきりしておりません。しかし、分からない以上は徹底して消毒をすることをお勧めします。

 

知っておこう!

最近、「塩素系洗剤に猫を近づけないで」という獣医師からの注意喚起が注目を集めています。「猫は塩素の匂いが好きでマタタビのように引き寄せられてしまう」可能性があるそうです。

 

市販のカビ取り洗剤などは非常に高濃度なため、体への有毒性が起こる可能性があります。皮膚糸状菌症の自宅管理の際は、水道水で100倍に薄めて使うことを必ず忘れないようにしましょう!気になる場合は、消毒を終えた後に水拭きしてください。

 

梅雨真っ只中ということもあり、カビ対策に塩素系の洗浄剤を利用する機会が多いこの時期。風呂場や台所などの水回りには、猫が死亡することもある危険が潜んでいるという。

この情報を発信した元臨床獣医で現在、研究員の“獣医にゃんとす”さんによると、「猫はなぜか塩素のニオイが大好き」で、「またたびのような反応」をみせることも。飼い主が風呂掃除していると自ら寄っていき、近くで見ていただけで「数日後に死亡した」という例もあることから、部屋の喚起と猫の隔離を徹底するよう呼びかけている。

BIGLOBEニュース

 

 

 

STEP3 洗濯物を洗う時の注意点!

  • 少ない量で洗濯する。
  • 基本、2度洗いをする。
  • できるだけ長めの洗浄コースを選ぶ。
  • すごく汚れている場合はハイターにつけ置きする。
  • 最後に洗濯機内に溜まった毛やゴミを処分する。

 

治療① 全身療法(飲み薬)

抗真菌薬というお薬で皮膚や毛に感染した皮膚糸状菌を倒します。

最低でも3ヶ月から6ヶ月程度の治療期間が必要になります。

お薬の服用で肝臓に負担がかかることがあるため(特に猫ちゃん)、定期的に血液検査を行います

血液検査で異常を認めた場合、その状況に合わせお薬の種類または投薬方法を変える場合もあります。

 

 

ワンポイント 

副作用がないお薬は残念なことに存在しません。いち早く、ペットの異変に気づけるように元気や食欲、排尿、排便に異常がないかチェックしましょう。

 

 

治療② 局所療法(外用薬&毛刈り)

飲み薬ではすぐに毛の先まで効果が及ばないため、その場合は、外用薬の出番です。皮膚糸状菌の範囲やその重症度に応じて毛刈りが必要になることもあります。

チェック1毛刈りが必要ですか?

☑︎毛玉が多い

☑︎長毛種(毛が長い品種)

☑︎症状が広範囲

☑︎なかなか治りにくい場合

 

ワンポイント

毛刈りの必要性は賛否両論です。バリカンで肌を傷つけてしまえば、糸状菌の感染を拡大してしまうケースもあります。くれぐれもおうちの方の判断で毛刈りを行わないでください。

行う場合は、ホームドクターさんとよく相談した上で、毛刈りをおこないましょう。

 

チェック2塗り薬はぬれますか?

  1. 薬の種類

塗り薬には、ローションタイプやクリームタイプがございます。動物の種類によって、または本人の性格によって、お薬は使い分けます。

2. 舐めさせない工夫

〜わんちゃん編〜

一番簡単なのは、エリザベスカラーの着用です。某ショッピングサイトで、柔らかいエリザベスカラーも販売されております。動物の活発さに合わせてお選びください。

エリザベスカラーの着用が難しい場合は、お散歩に行く前に塗り、お散歩から帰ったら、必ず濡れタオルで拭き取って下さい。薬の浸透に時間がかかるので、大変ですが最低30分はお散歩に行く様にして下さい。

 

〜ねこちゃん編〜

ローションタイプのお薬がおすすめです。クリームなどのお薬は、塗られた感じが残るため、違和感を覚えるケースがあります。

ローションタイプのお薬でも気にする場合は、わんちゃんと同様に、エリザベスカラーをおすすめします。エリザベスカラーは、薬を塗ってから30分間は着用して、外した後は、必ずお薬を拭き取って下さい。

猫ちゃんの場合、体が柔らかいため、塗った部分を舐めてしまう場合があるため、必ず拭き取りましょう。

 

ワンポイント

1日中エリザベスカラーを着用するのはやめましょう。毛繕いができなくなってしまうと、症状が悪化する場合があるため、エリザベスカラーを使用する場合は、必ず時間を決めて使いましょう。

 

 

再診でカビが消えたか確認

以下のスケジュールで検査を行い、2回連続でカビが検出されなければ、その2週間後に治療終了です。

①治療開始から2週間後
②治療開始から1ヶ月後

以降、当院では動物の状態に合わせ2週間間隔で診療を行います。

受診の前は必ず、行く前に連絡しましょう!動物病院さんによっては他の動物の接触を避けるため予約診療をお願いする場合があります。

 

まとめ

皮膚糸状菌の治療は一筋縄ではいきません。くれぐれも甘くみないことが治療期間の短縮につながります。

より良い明日を迎えるためにコツコツ一緒に頑張りましょう!

 

 

[ お願い ]

今回、まとめた内容は一例です。全ての皮膚糸状菌の患者様に対応できているとは思いません。参考程度だと思ってください。

必ず、ホームドクターさんで診断してもらい、治療の指示を受けましょう。

 

参考文献

Diagnosis and treatment of dermatophytosis in dogs and cats.Clinical Consensus Guidelines of the World Association
for Veterinary Dermatology
Karen A. Moriello, Kimberly Coyner, Susan Paterson and Bernard Mignon Vet Dermatol 2017; 28: 266-e68

 

教えて!猫の皮膚病シリーズ:皮膚糸状菌』 笹塚動物病院 門岡 友子先生