診断の前に・・・
犬アトピー性皮膚炎の症状アトピー性皮膚炎の定義の中に「特徴的な臨床徴候を有する炎症性、掻痒性のアレルギー性皮膚炎」とあるように、犬アトピー性皮膚炎の主な症状は「痒み」と「皮膚炎」です。
また、「特徴的な臨床徴候」というのはこの「痒み」と「皮膚炎」に加えて「症状の分布」が特徴的な点にあります。
症状
前回の原因編で、痒みが生じるまでを詳しく記載しました。痒みのメカニズムの先に症状があります。
犬アトピー性皮膚炎と言ったら、① 痒みです。
最初の症状は ① 痒み から始まります。
一般的な皮膚病は皮膚病変が作られてから痒みが生じます。しかし、犬アトピー性皮膚炎は必ず痒みから始まります。痒みが起こり、引っ掻く、舐めるなどの動作を繰り返し、皮膚に②赤み(紅斑)や③ 引っ掻き傷が生じます。
掻き動作を繰り返し続けることで次第に④ 皮膚の厚みが増す[象の肌様:苔癬化] ⑤ 皮膚が黒くなる[色素沈着] ⑥ 皮膚がえぐれる[びらん・潰瘍] などの症状が認められます。
ワンポイント
痒みには、
『引っ掻く』、『舐める』、『擦る』、『噛む』、『頭を振る』といった動作があります。
そして、痒みを客観的に判断するスコア表があります。
通称『 P-VAS :痒みスコア 』と呼びます。当院に来院される患者さんは必ず最初に聞かれると思います。
症状の分布
もっともよく認められるのは、
- 眼の周り
- 口周り
- 前胸部
- 肘の内側
- 前足の先端(指の間・肉球の間)
- 後足の先端(指の間・肉球の間)
- わきの下
- お腹
などが特徴的です。
① 痒み [ 引っ掻く、舐める、噛むなど ] ② 皮膚炎 [ 赤み ] ③ 慢性または再発しやすい ④ 季節によって症状が違う[ 季節性 ] ⑤ 左右対称に症状を認める
診断編
犬のアトピー性皮膚炎は診断が大切です。この診断を達成できないためアレルギー性皮膚炎と呼ばれてしまうことは多々あります。
犬アトピー性皮膚炎の診断は基本的に除外診断となります。
外部寄生虫の可能性:ノミ・ダニなど寄生虫の除外
ステップ2
感染症の可能性 :細菌(ブドウ球菌)や 真菌(マラセチア)の除外
ここまで否定した上で、初めてアレルギーの可能性を疑います。
痒み=アレルギーではありません。
アレルギー性皮膚疾患の可能性
①ノミアレルギー
②食物アレルギー
③犬アトピー性皮膚炎
④その他(接触性皮膚炎, 虫刺されなどの疑い)
①から③に診断を進めていく際に、必ず必要な検査があります。それは『除去食試験』です。血液検査でも食物アレルギーの有無を検査できます。しかし、当院は必ず『除去食試験』を取り入れている理由があります。詳しくは… また今度!
ステップ4
その他に痒みの症状を認める疾患を疑います。しかし、今回は犬アトピー性皮膚炎がメインです。またの機会にしたいと思います。
脂漏症の可能性
腫瘍の可能性:皮膚型リンパ腫
心因性の可能性:ストレス, 環境の変化, 同居動物との関係性
これらの鑑別疾患がないかどうか除外をした上で初めて、犬アトピー性皮膚炎の診断を行うことができるのです。
Favrotの診断基準
犬アトピー性皮膚炎の診断をするにあたり、「Favrotの診断基準」というものがあります。
- 初発年齢が3歳未満
- 飼育環境のほとんどが室内
- コルチコステロイド治療によって痒みがおさまる
- 慢性あるいは再発性の酵母(マラセチア)感染症
- 前肢に皮膚病変が認められる
- 耳介に皮膚病変が認められる
- 耳の辺縁には皮膚病変がない
- 腰背部には皮膚病変がない
これら8つの診断基準のうち、5つの基準が満たされた場合
感度:85.4% (アトピーだと正しく診断できる確率)
特異度:79.1%(アトピーではないと正しく診断できる確率)
の確率で犬アトピー性皮膚炎と診断することができます。
ここでのポイントは、必ず外部寄生虫や細菌、真菌の感染を除外してからこの診断基準を使うことです
アレルゲン特異的IgE検査
皮内試験
皮内試験とは、ダニや花粉などのアレルゲン液を皮内に注射することで起こる皮膚の反応を見る検査です。
犬アトピー性皮膚炎の診断というよりは、原因となっているアレルゲンを特定して、そこから減感作療法を実施するために行う検査になります。
皮内にアレルゲンを注射することで、そのアレルゲンに反応する場合は皮膚が膨れたり赤くなっていきます。
しかしながら皮内試験は複数箇所注射を行うため、鎮静下もしくは全身麻酔下での処置になります。
さまざまな診断方法をご紹介しましたが、やはり犬アトピー性皮膚炎の診断は基本的に「除外診断」ということを覚えておいてください。