なになにシリーズ? epsode1 アトピー性皮膚炎って?原因編

 

そもそもアトピー性皮膚炎ってどんな病気なの?

というか…痒い…これはアレルギーなの?

犬のアレルギーと犬のアトピーって同じ意味なの?

言葉や説明が獣医さんによっていろいろ違う…よくわからないわー(>_<)

という方が多いと思います。そんなオーナー様に向けて簡単?にまとめました。

とっても長いのでどうか最後までお付き合いください。

[ お願い ]

現段階で私自身が把握している情報をまとめています。獣医さんの中でも師匠と仰ぐ先生によって多少、解釈や表現の仕方は違います。『某先生はこう言っていた〜』や『こっちの先生はこう言っていた』などのご指摘はご容赦ください。こういった考え方があるんだ程度にお願いします。

病気のお話しの前に・・・!?

そもそも犬のアレルギーと犬のアトピーは同じ意味ではありません。

アレルギー反応が原因で起こる症状[犬の場合]

  • 鼻炎
  • 気管支炎
  • アトピー性皮膚炎はてな?|西山動物病院|千葉県・埼玉県
  • ノミアレルギー
  • 接触性皮膚炎
  • 蕁麻疹/血管浮腫
  • 食物アレルギー(皮膚症状または消化器症状)

などなどが挙げられます。

このうち皮膚症状を伴う『犬アトピー性皮膚炎』、『食物アレルギー』、『ノミアレルギー性皮膚炎』、『接触性皮膚炎』、『蕁麻疹/血管浮腫』を総称して皮膚科では『犬アレルギー性皮膚疾患または皮膚炎(通称:アレルギー)』と表現します。要は痒みがあるけど細かいところがまだわからない場合に多く使用します。

 

 

 

アトピー性皮膚炎とは

本来は体に害をもたらさない花粉や

ハウスダストマイト(チリダニ)、カビ(真菌)の胞子などの痒い犬|犬アトピー性皮膚炎|西山動物病院|千葉県・埼玉県

環境中に存在する物質(別名:アレルゲンまたは抗原)に対し、

体の防御機構である免疫が過剰に反応することで起こる皮膚炎です。

皮膚のダメージや乾燥はアレルゲンの侵入を容易にし、症状の悪化を招きます。

 

 

アレルギー反応[痒みが生じるまでの過程]

私たちの体は、日々様々な生き物、物質(免疫反応をおこさせるこれらを「抗原(こうげん)」と呼び、アレルギー反応をおこす物質または抗原を「アレルゲン」と呼んでいます)と接触をしています。通常の免疫システムは、これら抗原が侵入したときに適切に処理し、再び侵入すると水際で処理する仕組みができるのですが、侵入してきた抗原に対して、アレルギー反応を担当するリンパ球が働いてしまうと、IgE抗体ができてしまいます。このIgE抗体はダニ、花粉など様々な外部からのアレルゲンに対し、それぞれ専用のIgE抗体を作ります。また、この抗体ができた状態を「感作(かんさ)」と呼んでいます。

 

例)ダニに対してのアレルギー反応

痒みのメカニズム

犬の痒みのメカニズムKs Acadermy

1)皮膚からダニのアレルゲン(以下アレルゲンと略称)が侵入します。

2)アレルゲンは主に皮膚の樹状細胞(ランゲルハンス細胞)に取り込まれます。

3)そして近くのリンパ節まで運ばれます。

4)リンパ節の中でヘルパーT細胞に情報の提供を行います。

5)情報をもらったヘルパーT細胞はB細胞を形質細胞に変身させます。

6)形質細胞はIgE抗体を産生します。

7)作られたIgE抗体は肥満細胞に合体します。 次回、アレルゲンが侵入する時に備えています。

8)再び、アレルゲンが侵入すると肥満細胞は細胞内に蓄えていたヒスタミンなどを放出します。

9)放出されたヒスタミンは、血管を広げ、皮膚を赤く見せ、炎症反応が引き起こされます。

10)そして知覚神経を刺激してかゆみをおこします

 

原因は ? 犬アトピー性皮膚炎は原因がいっぱいの病気?

犬アトピー性皮膚炎の原因は様々です。親からの遺伝や根底に皮膚バリア機能異常などがあるため、痒みや皮膚炎を引き起こす原因が一つではありません。

そして、これから説明するような原因がいくつか重なって発症すると考えられています。

 原因① [ 遺伝的要因:親からの遺伝 ]

遺伝的な要因とは、親から子へ、子から孫へと犬アトピー性皮膚炎が受け継がれていきます。

  アトピー素因  遺伝的要因|親子|西山動物病院|犬アトピー性皮膚炎

発症しやすい年齢
 生後6ヶ月〜3歳 くらい 
 [ ※  高齢になってから症状が悪化するケースもあります。]

 

なりやすい犬種:
 シーズー、フレンチブルドッグ、ラブラドールレトリバー、パグ、
 フレンチブルドック、ヨークシャーテリア、トイプードル
 ミニチュアダックスフンド、ウエストハイランドホワイトテリア、柴犬、などです。

 

当院で犬アトピー性皮膚炎と診断した主な犬種

柴犬アトピー好発犬種|西山動物病院|千葉県・埼玉県
シーズーアトピー好発犬種|西山動物病院|千葉県・埼玉県
フレンチブルドッグアトピー好発犬種|西山動物病院|千葉県・埼玉県
パグアトピー好発犬種|西山動物病院|千葉県・埼玉県
トイプードルアトピー好発犬種|西山動物病院|千葉県・埼玉県

 

 

 

  痒みに敏感な体質  

免疫的な異常により環境アレルゲンに対するIgE抗体という物質が過剰に産生される傾向にあります。

また、過剰に産生されることで

A 知覚神経の伸展(神経が刺激を感じやすい)

B    炎症を起こす物質(サイトカイン)が分泌されやすい

などの影響を受けます。

 

要は…『痒みや皮膚の炎症が悪化しやすい体質(アトピー素因)』を持っているということです!

 

 

 原因② [ 皮膚バリア機能の障害 ]

犬アトピー性皮膚炎の発生機序は完全には解明されていませんが、環境中のアレルゲン(抗原)に対するIgEが関連することのほかに、皮膚バリア機能の障害も関与することも報告されています。

◎ 皮膚の表面(角質層)の異常

①  水分が逃げやすい(乾燥肌)

→ 保湿成分であるセラミドの量が健常犬より少ないため、水分が皮膚から蒸散

しやすい。

② アレルゲン(抗原)が侵入しやすい

→ 水分が皮膚から逃げてしまうということは皮膚のバリアが弱いということ

下記の図のようにアレルゲンが侵入しやすくなります。

 

皮膚バリア機能障害|西山動物病院皮膚科専門診察|

 

◎ 刺激を受けやすい敏感な肌(皮膚に接触することにより)

 

人ではフィラグリン遺伝子の異常により皮膚バリアの機能障害が証明されておりますが、まだ犬では報告がされていません。今後の研究により明らかになると思われます

 

親からの遺伝とバリア機能の関係

この一連のアレルギー反応が起きるためには、大前提として、皮膚が荒れていてアレルゲンが皮膚のなかへ侵入するという過程が必要です。もし皮膚のバリア機能がしっかりしていて、アレルゲン が皮膚に入り込まなければ、アレルギー反応は起きにくいということです。したがって、免疫的な異常によりIgE を産生しやすくても、皮膚バリア機能がしっかりしている場合には、アトピーの症状は起きにくいと言えるわけです。もちろん免疫異常がなくてはアトピー は起こりませんが、それと同時に皮膚のバリア機能が低下していることが重大な要因の1つであるわけです。

 

 

ワンポイント

犬アトピー性皮膚炎では乾燥肌だけでなく、分泌腺の異常も伴うことがあります。分泌腺??とは皮脂や汗のことです。皮脂や汗の分泌が乏しく、皮膚の表面の皮脂膜が減少すると乾燥肌は悪化します。

逆に分泌が過剰になってしまうと、脂漏や多汗を伴うことがあります。

多すぎても少なすぎても皮膚には大問題です!

 

 

 原因③ [ 環境の影響 ] 

犬アトピー性皮膚炎の症状の発生には、原因となる環境アレルゲンが存在する生活環境が必要になります。

代表的な環境アレルゲン

ハウスダストマイト

ダニ|環境アレルゲン|西山動物病院|千葉県・埼玉県

スギ花粉

杉花粉・アトピー性皮膚炎|西山動物病院|千葉県

カビ
カビ|環境アレルゲン|西山動物病院|千葉県・埼玉県
ノミ
ノミ|環境アレルゲン|西山動物病院|千葉県・埼玉県

 

環境アレルゲンに対してのIgE抗体は検査で調べることができます。

詳しくは診断をご参照ください。

 

 原因④ [ 常在菌の影響 ]

健常犬の場合、皮膚の表面には常在菌という体を守るために存在する細菌がたくさん(=種類が豊富に)存在します。

でも・・・犬アトピー性皮膚炎になる子たちの皮膚を調べると実は細菌の種類に偏りがあることが報告されています。

発症している場合、皮膚バリア機能の障害と分泌腺の異常からブドウ球菌が多く認められていると報告があります。またマラセチアも増えやすい傾向にあります。

思い当たる節はありませんか?痒みが増して黄色い痂皮(カサブタ)が出来たこと…赤いブツブツを治療しては再発を繰り返すことはありませんか?

 

詳しく知りたい方 編

細菌もマラセチアも皮膚の表面にいる常在菌です。常在菌は過剰に犬のブドウ球菌|西山動物病院|千葉県・埼玉県・茨城県

増えなければ基本的には悪さをしません。

では、どんな時に過剰に増えてしまうのでしょうか?

 

細菌編

①犬アトピー性皮膚炎では、皮膚バリア機能の低下や常在菌の偏りによりブドウ球菌が増えやすい傾向にあります。

②犬アトピー性皮膚炎の子の中には、ブドウ球菌に対してアレルギー反応を起こすケースがある。それにより痒みや皮膚炎を起こし、ブドウ球菌が増えやすい環境が整います。

 

マラセチア編

① 皮脂の分泌が多いケースマラセチア|西山動物病院皮膚科専門診察|千葉県・埼玉県・茨城県

A:もともと、皮脂の分泌が多い犬種(生まれつきの体質)

B:皮膚症状に伴い皮脂の分泌が増えたケース(後天的な脂漏)

Bで多い理由は、皮膚で炎症が起こり、次第に脂の分泌が増した状態です。
これはアレルギーを持つワンちゃんに多く認められます。

 

② 皮膚の抵抗力が落ちているケース

このケースはまさに犬アトピー性皮膚炎など、皮膚の炎症が起きることで抵抗力が低下して起きる場合が当てはまります。

 

常在菌のバランスが崩れる場合に考えられること…

それは ①アレルギー疾患 ②ホルモン疾患 ③ 皮脂分泌異常 などが隠れている可能性が疑われます。

 

 原因⑤ [ 食事の影響 ]

犬のアトピー性皮膚炎は環境中のアレルゲンが必要となると『環境の影響』でお話しさせていただきました。

食物アレルギーの併発|西山動物病院|千葉県・埼玉県・茨城県

しかし、実際には環境中の影響だけでなく食事の影響(食事のアレルギー)を併発しているケースも少なくありません。過去に欧米での報告では犬アトピー性皮膚炎を持っているワンちゃんの最大75%は何らかの食事のアレルギーを持っていると言われています。

 

 

 

 原因⑥ [ ストレスの影響 ]

犬アトピーとストレスの関係|西山動物病院皮膚科専門診察|千葉県・埼玉県・茨城県

精神的なストレスが痒みを悪化させる可能性があります。慢性的な強い痒みは掻く動作で体を傷つけるだけでなく、精神的な苦痛を伴います。また、夜間も痒くて目を覚ますなどの状態が続くことで性格の変化や行動の異常を認めることもあります。この繰り返しで負の連鎖が続き、さらに痒みや皮膚炎を悪化させることがあります。

 

 原因⑦ [ 併発疾患 ]

犬アトピー性皮膚炎を発症後もワンちゃんたちは年々、歳を重ねていきます。皮膚病だけでなく、内臓の病気や時にはホルモンの病気が隠れていることがあります。こうした隠れた病気が治療の妨げになるケースもあります。

 

まとめ

① 痒みや皮膚炎が悪化しやすい体質である。

② 皮膚のバリア機能の障害を持っている。

③ 原因は様々で、多くの要因が絡み合って発症する。の3つです。

 

次回は特徴的な皮膚症状と診断についてまとめます。

 参考資料

  • Muller and Kirk’s Small Animal Dermatology 7th ed.(2012)
  • Canine atopic dermatitis: detailed guidelines for diagnosis and allergen identification.(2015)
  • Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 update guidelines from the International Committee on Allergic Diseases of Animals (ICADA).(2015)
  • 犬のスキンケアパーフェクトガイド 伊從 慶太 著
  • 伴侶動物の皮膚科・耳科診療    緑書房
  • 小動物臨床獣医師のためのKSアカデミー開講
  • 犬のかゆみ.com
  • 皮膚科治療戦略アップデート  講師 島崎洋太郎