ついにはじまりました!!「教えて!犬の皮膚病シリーズ」
犬の皮膚病について、悩める飼い主さん向けにわかりやすく解説していきますのでお楽しみに♪
記念すべき第1回は「犬アトピー性皮膚炎」についてです。
「アトピー」って言葉は知っているけど、
犬のアトピー性皮膚炎ってどんな症状?どうやって治療するの?
などなど、気になる疑問についてお答えしていきます。
犬アトピー性皮膚炎とは?
まずはじめに、アトピー性皮膚炎はこう定義されています。
ん〜、なんとも難しいですね。
IgE抗体はダニ、花粉など様々な外部からのアレルゲンに対してアレルギー反応を引き起こす、血液中の免疫グロブリンという免疫を担当するタンパク質の一種です。
もう少しわかりやすく言うと、
と言い換えることができます。
遺伝的背景と皮膚バリア機能異常
犬アトピー性皮膚炎の発症には遺伝的な背景があると言われています。
そのため、発症年齢は生後6ヶ月〜3歳と若いのが特徴です。
好発品種は海外と日本で少し異なるようですが、実際に診察をしていると
柴犬、シーズー、フレンチブルドッグ、ラブラドールレトリバー、ヨークシャーテリア、ウエストハイランドホワイトテリア、ミニチュアダックスフンド、トイプードルで多いように感じます。
さらにアトピー性皮膚炎の犬はそうでない犬に比べて、皮膚バリア機能に異常があることもわかっています。
アトピー性皮膚炎は多因子疾患
犬アトピー性皮膚炎はよく多因子疾患と言われています。
というのも、犬アトピー性皮膚炎というのは根底に皮膚バリア機能異常があるため、
実は、痒みや皮膚炎を引き起こす原因が一つではありません。
環境アレルゲンの他にも細菌やマラセチア、さらに併発疾患によっても悪化をしてしまったり、環境変化などの心因性ストレスから痒み行動に繋がることもあります。
そのため、アトピー性皮膚炎に対する治療も多面的なアプローチが必要ということになります。
アトピー性皮膚炎の症状
アトピー性皮膚炎の定義の中に
「特徴的な臨床徴候を有する炎症性、掻痒性のアレルギー性皮膚炎」とあるように、
犬アトピー性皮膚炎の主な症状は「痒み」と「皮膚炎」です。
また、特徴的な臨床徴候というのはこの「痒み」と「皮膚炎」に加えて
「皮疹の分布」が特徴的な点にあります。
特徴的な皮疹の分布
痒みや赤み、脱毛といった皮疹の分布が
耳の内側、眼・口周り、四肢の先端、わきの下、お腹、肘の内側
に左右対称にみられます。
犬アトピー性皮膚炎は主に環境アレルゲンに対するアレルギー性皮膚炎であるため、
ダニや花粉など、反応するアレルゲンの多い季節によって症状の波がでてきます。
多くは季節の変わり目や、高温多湿な夏に症状の悪化がみられます。
アトピー性皮膚炎の診断
犬アトピー性皮膚炎の診断は基本的に除外診断となります。
- 感染性:外部寄生虫(ノミ・ダニ), 細菌(ブドウ球菌), 真菌(マラセチア)
- アレルギー性:ノミアレルギー, 食物アレルギー, 接触性皮膚炎, 虫刺され
- 腫瘍性:皮膚型リンパ腫
- 心因性:ストレス, 環境の変化, 同居動物との関係性
これらの鑑別疾患がないかどうか除外をした上で初めて、犬アトピー性皮膚炎の診断を行うことができるのです。
Favrotの診断基準
犬アトピー性皮膚炎の診断をするにあたり、「Favrotの診断基準」というものがあります。
②飼育環境のほとんどが室内 ③コルチコステロイド治療によって痒みがおさまる ④慢性あるいは再発性の酵母(マラセチア)感染症 ⑤前肢に皮膚病変が認められる ⑥耳介に皮膚病変が認められる ⑦耳の辺縁には皮膚病変がない ⑧腰背部には皮膚病変がない
これら8つの診断基準のうち、5つの基準が満たされた場合
感度:85.4% (アトピーだと正しく診断できる確率)
特異度:79.1%(アトピーではないと正しく診断できる確率)
の確率で犬アトピー性皮膚炎と診断することができます。
ここでやはり注意をしないといけないのが、必ず外部寄生虫や細菌、真菌の感染を除外してからこの診断基準を使うことです。
そうしないとせっかく犬アトピー性皮膚炎と診断しても、
なぜかなかなかコントロールがうまくいかない・・・という事態に繋がってしまいます。
アレルゲン特異的IgE検査
血液中のアレルゲン特異的IgE抗体を調べることで、犬アトピー性皮膚炎の原因となるアレルゲンを調べることができます。
外注検査になりますが、1週間程で検査結果を得ることができます。
しかしながら、このアレルゲン特異的IgE検査も100%完璧な検査というわけではないため、測定誤差など含め数値の評価には注意が必要です。
皮内試験
皮内試験とは、ダニや花粉などのアレルゲン液を皮内に注射することで起こる皮膚の反応を見る検査です。
犬アトピー性皮膚炎の診断というよりは、原因となっているアレルゲンを特定して、そこから減感作療法を実施するために行う検査になります。
皮内にアレルゲンを注射することで、そのアレルゲンに反応する場合は皮膚が膨れたり赤くなっていきます。
しかしながら皮内試験は複数箇所注射を行うため、鎮静下もしくは全身麻酔下での処置になります。
さまざまな診断方法をご紹介しましたが、やはり犬アトピー性皮膚炎の診断は基本的に「除外診断」ということを覚えておいてください。
アトピー性皮膚炎の治療
犬アトピー性皮膚炎はさまざまな要因が複雑に絡み合っている多因子疾患です。
そのため、犬アトピー性皮膚炎とうまく付き合っていくには多面的アプローチが必要となります。
痒み・炎症を抑える薬物療法
犬アトピー性皮膚炎の症状である痒みや皮膚炎がひどい時には、まずは一旦その痒みや皮膚炎を鎮めてあげる必要があります。
昔から使用されているのが、ステロイドやシクロスポリンといった免疫を抑える作用のある薬です。
炎症や痒みはアレルゲンに対する過剰な免疫反応によって起こります。
その過剰な免疫反応を抑えることで、皮膚炎や痒みを改善してくれます。
最近ではより薬の作用する場所を絞り、副作用のリスクを減らしたアポキルやサイトポイントといった薬も登場しています。
それぞれの薬にはもちろんメリット・デメリットがあるため、その子その子にあった薬を選ぶ必要があります。
薬品名 | メリット | デメリット |
ステロイド
(プレドニゾロン) |
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シクロスポリン
(アトピカ) |
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オクラシチニブ
(アポキル) |
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ロキベトマブ
(サイトポイント) |
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また、飲み薬だけでなく、犬アトピー性皮膚炎には外用剤も有効です。
特に痒みや炎症が強く、皮膚が分厚くなってしまっているような場所に外用ステロイド剤を外から塗ってあげると、皮膚の構造変化を正常な状態に戻してくれます。
皮膚バリア機能を高める
犬アトピー性皮膚炎を管理していく上で、皮膚バリア機能を高めることも大切です。
- スキンケア:低刺激性のシャンプー、保湿剤
- サプリメント:必須脂肪酸、ビタミン、乳酸菌
- 食事:皮膚系の療法食
などなど、薬物療法だけでなく、さまざまな皮膚バリア機能を高めるケアを行うことで、症状の緩和に繋がります。
悪化要因の同定と回避
犬アトピー性皮膚炎の悪化要因となるアレルゲンを回避することで、症状をうまく管理することができます。
- ノミ・ダニ予防
- ワイプ(ウェットシート)などで皮膚についたアレルゲンの除去
- 草むらなどの散歩コースを避ける
- 常在菌による皮膚炎の管理:膿皮症、マラセチア皮膚炎
- 新しいフードやおやつを与えるときは症状の悪化がないかどうか注意
さらに季節やライフステージによっても症状は変化していくことがあるので、
「今までうまくいっていたのに、最近急に痒みが増えたかも?」
と感じた時には悪化要因の見直しをしてみると良いでしょう。
減感作療法
減感作療法は原因となるアレルゲンを少量ずつ投与して体を慣れさせ、アレルギー症状を起こさないようにする治療法です。
今まで紹介してきた治療法は基本的には対症療法ですが、減感作療法は唯一根治を目指せる治療法です。
しかしながら、どの治療法もそうですが、全てのアトピー性皮膚炎の犬に効く治療法ではありません。
また、徐々に体をアレルゲンに慣れさせるため、はじめは頻回の通院が必要で、結果が出るのにも数年という時間がかかってしまいます。
そのため、今ある痒みや炎症を抑える治療を継続しながら、減感作療法を長期的な治療として組み合わせていく方法も選択肢の一つです。
インターフェロン療法
アレルゲンに対してピンポイントである減感作療法に比べると弱いですが、
体質改善という意味ではインターフェロン療法も有効です。
インターフェロンはもともと体内に存在する物質で、免疫細胞のバランスを調整してくれます。
このインターフェロンを定期的に皮下注射することで、犬アトピー性皮膚炎の痒みや皮膚炎といった症状を改善したり、今まで飲んでいた薬の投薬量を減らせる可能性があります。
まとめ
今回は「犬アトピー性皮膚炎」の概要についてまとめていきました!
こんなに症例によって治療プランが異なる病気はないんじゃないかと思うほど、とても奥が深いのが犬アトピー性皮膚炎です。
新しい治療法もどんどん出てきているので、日々アップデートしながらオーダーメイドの治療を提案していきたいと思います。
それではまた〜♪
参考資料
- Muller and Kirk’s Small Animal Dermatology 7th ed.(2012)
- Canine atopic dermatitis: detailed guidelines for diagnosis and allergen identification.(2015)
- Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 update guidelines from the International Committee on Allergic
- Diseases of Animals (ICADA).(2015)